半人前な科学者
実験が大好きな科学者のエフ氏は、大半の時間を実験に費やし、自分の仕事に明け暮れていた事で婚期を逃してしまった。
結婚について彼は特別なにも感じていなかったが、親の事を思うと少々頭の痛い問題であった。
アール氏の親は「死ぬ前に孫の顔がみてみたい。」だとか「結婚してこそ一人前だ。」と顔を合わせる度に結婚についてアール氏に言うのだった。
それでも、アール氏は世の中が晩婚化してる背景とを説明し言い訳してきたし、仕事が忙しいと言ってなんとか毎回切り抜けてきた。
ところが、母親が大病を患いすっかり痩せてしまったのを見て、アール氏は重い腰を上げることにした。
アール氏は、かねてから実験していたタイムマシンを完成させ、未来へ行くことにした。
未来に行き奥さんがいれば、今相手を探す手間が省ける。そう思い、アール氏は未来へと出掛けていった。
しばらくして、帰ってきたアール氏は申し訳なさそうに母親に謝った。
「鬼に飼われるくらいなら半人前でいい。」
景観省
急速な開発による影響で、アール氏の住む国の景観は異様になってしまった。今や近代的ビル群は、トコロ狭しと乱立し、コンクリートとアスファルトの灰色で満たされてる。
そこで国は、景観の保護と管理を特別組織に任せ“景観省“を作りだした。そして、アール氏はその景観省の“色彩部“で働き、国の色を管理している。
そこへある時、新しい国作りのためのデザイナーが1人配属された。
そのデザイナーであるエム氏は、長年デザインの仕事をしてきたベテランで、かなりの経験を持っている。しかし、メディアの露出が嫌いで、素性を知る人は決して多くない。
アール氏も名前は知っていたが、ほとんど謎の人物だった。
アール氏は、仕事を初めて共同した際「なるほど。流石の仕事っぷり」と思わされたし、エム氏の描く色彩感覚は奇抜でグンを抜いていた。
担当の街も、やがてその奇抜な色彩によって個性を取り戻しつつあった。
そんなある日、アール氏はエム氏のデザイナーとしての極意を聞き出すために、エム氏の本がズラリと並べられたオフィスへと訪問した。
エム氏のミーティングがまだ終わっていなかったため、アール氏はエム氏の部屋で待つことになった。
本棚には様々な本があり、気になった1冊を手に取りアール氏は驚いた。
そこには、すべて白紙でブツブツした突起がページに無数にあったのである。
「なるほど。想像の及ばない奇抜なワケだ。」とアール氏は納得した。